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Sunday, 06 November 2011

思い込みの怖さ

Bkbkm田馬場は都内でも屈指のラーメン激戦区である。人気店が数多く軒を連ねて、続々と新しい店がオープンしているが、同様に閉店していく店も同じくらい多い。それは右も左も分からない経験の浅い店だけではなく、全国に何十軒も店を構えているような実力チェーン店も同様で、半年や一年経たずして暖簾をたたむ店も少なく無い。しかしその理由は決して競合するラーメン店が多いから、というだけではない。あの街は非常に客層が絞りにくく、捉えにくい街なのだ。

高田馬場は学生街なのか

 高田馬場はどんな街かと聞かれれば、大半の人は「学生街」と答えるに違いない。確かに街には学生があふれ、早稲田大学などの大学生はもちろんのこと、予備校も多いので浪人生や高校生たちも多い。しかし実際にはオフィスも同様に多く、一本道を入れば住宅街が広がる、学生、会社員、商店、住宅が複雑に絡み合う場所なのである。そしてそれは高田馬場に限らず、ほとんどの街がそうと言ってもいい。学生しかいない学生街はないし、サラリーマンしかいないオフィス街もあり得ない。未来の乗り物はトゥモローランドにしかなく、夢と魔法はファンタジーランドにしかないというような、ディズニーランドの中のカテゴライズとは違うのだ。

 また同様に、その街の北と南、東と西でまったく性格が異なることも多い。線路や主要道路を隔ててガラッと街の顔が変わる。例えば、高田馬場、と言っても駅の東と西で違うし、早稲田通りの南北、明治通り以東でもまた違う。それをまとめて「高田馬場はこういう街だ」と語ることは非常にナンセンスであるし、経営者的な視点による戦略的思考とは言い難い。

金持ちの学生、大食いのOL、デザート好きのお父さん

 飲食店が客層を絞る時、どの店もその街がどんな性格なのかを考える。学生街なのかオフィス街なのか住宅街なのか。そこから学生・サラリーマン・OL・肉体労働者・主婦などをイメージする。しかし意外と盲点になっているのは同業の飲食店を始めとする商店の従業員の存在だったりする。オフィス街だから1時を過ぎたら皆お昼を食べに来なくなる。それは正解だけれど、それはサラリーマンの話であって、その人たちが食べに行った飲食店や、商店のスタッフたちはその後にお昼ごはんを食べる。すべてがすべて飲食店が自分の店で賄いを食べるとは限らないし、商店も一段落するのは昼休み後。実際ラーメン店の従業員で、同業他店に調査半分で食べに行ったりするケースは多々みられたりもする。彼らが食べられる時間も昼のピークタイム以降だ。そのタイミングで中休みを取っている飲食店はみすみす売上げの機会を逃している。

 あとは、学生・サラリーマン・OL…というステレオタイプなカテゴライズも結構危険だ。学生は金が無くて大食いとか、OLは小食でデザート好きとかの思い込み。もちろん貧乏学生もいるだろうし、普通の量でも残してしまうようなOLもいるだろうが、押し並べて学生はサラリーマンよりも自由な金をいっぱい持っているし、OLだって二郎マシマシを喰う人が多い。トッピングに悩み、お得なセットはどれだなどと考えているのはサラリーマン。これまでに色々ななラーメン店をプロデュースしてきて、メニュー開発もやってその購買傾向を見て来たが、ラーメン全部乗せにチャーシューごはんで1,200円なんてのを迷わず注文するのは学生だけ。サラリーマンのお父さんたちはとてもそこの金銭感覚はシビア。自分のことだけ考えていればいい学生とは背負ってるものがまったく違うのだ。

 またラーメン店に限って言えば、デザートの注文率はサラリーマンが高い。OL、女子学生、主婦などは色々な場所でデザートを食べられるけど、サラリーマンはなかなか食べるチャンスがない。女性はラーメン屋の片手間デザートに300円払うよりも、ちゃんとしたカフェで500円のケーキを食べる。その属性によって金銭感覚というのはまったく異なる。それをどう見切るかも飲食店経営では重要なことだ。

淡麗系ラーメンに対する幻想

 思い込みといえば、年輩客が油分が少なく和出汁が効いたあっさり味のラーメンを好むというのもそう。年輩の人がラーメン店に来るのは「ラーメンが食べたいから」。ある方がある店で「オレはラーメンが喰いたいんだよ。こんなのだったら蕎麦屋で喰えるだろ」と言ったのが今も頭を離れない。銀座の老舗「共楽」はどちらかといえば年輩率が高いノスタルジックラーメンの店だけど、あっさりでもさっぱりでもなんでもない。旨味は強く油分は多いし醤油ダレも強くてインパクト十分。同じ銀座の老舗でも「萬福」とは対照的だ。

 清湯系や淡麗系のラーメンがここ数年のトレンドというのは間違いではないけれど、ではそれが売れている、客の支持を集めているのかと聞かれれば、もう明らかに幻想以外の何モノでもなく、まさに思い込みの極致だったりするのだ。誤解のないように言えば、淡麗系の新店はここ数年増えているし、どこの店も美味しいし、行列も作っている。しかしマーケット全体を俯瞰した時にはその系統はやはりマイノリティだ、ということ。消費者が10人いて、7人や8人がそういう店を選ぶかといったらそうではないということ。先日発売になったあるラーメン本に掲載されていた読者ランキング。どういうサンプルでどう作られたデータなのか、その信憑性はさておき、結果を見るとベストテンのうちほとんどが濃厚豚骨魚介系のつけ麺だったり豚骨だったりで、あっさり清湯系などは皆無というのがその一つの証左であろうかとも思う。

いつの時代も売れるラーメンは「濃厚」

 ラーメンがブームになってからのこの20年、常に売れ続けているのはやっぱり「濃厚」「こってり」「豚骨」「豚骨魚介」味なのだ。今、この瞬間に全国のラーメン店で食べられているラーメンの数を数えたら、「今流行」の淡麗系や透明な塩ラーメンの占める割合はたかが知れている。よく、千葉の内房エリアは竹岡式をはじめとする醤油ラーメンの支持が強いという話があるがそれもある意味間違いで、市原、木更津、君津などを見てもそれよりも味噌ラーメンの方が売れていると体感する。これは良く言う話なのだけど、竹岡式ラーメンの元祖「梅乃家」がもし味噌ラーメンを出したら、きっと一番人気のメニューになるだろう。面白い実例を一つ挙げれば、今年木更津にオープンした超大型新店は、あっさり淡麗系の醤油ラーメンと、濃厚豚骨魚介系のつけ麺の二枚看板が売り。我々ラーメン評論家はもちろん、世のラーメンフリークもテレビ雑誌もこぞってこの店では濃厚なつけ麺よりもあっさりのラーメンを持ち上げるけど、お店の人に聞くと地元ではラーメンよりもつけ麺の出数が圧倒的なのだそうだ。これも非常に興味深いデータだと思う。

 ラーメン店を営む人や開業しようとする人は、マスコミや僕ら評論家の言う「トレンド」を真に受けてはいけない。僕らは皆が意識しないところを注目するのが仕事であり非常に視野狭窄的だ。トレンドのラーメンダイニングが1日100杯売る横で、ラーメンショップが500杯売ってるのが現実。しかし、テレビや雑誌などを眺めていると、世の中で売れているのはあっさり系のラーメンなのではないかと思い込む。言うまでもなく、その土地立地に即した味や店作りになっているかどうかがまず重要。マスコミやネット上での「作られたトレンド」ではなく、半径500メートル、1キロ圏内での傾向を探ることから始めるべきだ。そのために、自分の店の周辺の性格や客層を思い込みや先入観を取り払っていくことがとても重要だ。

(この文章はtwitterに連続投稿したものを加筆修正したものです)

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Thursday, 23 September 2010

チャーシューのネット販売は是か非か

Chashu近はお店に行かなくてもインターネットの通販で様々な物が買える時代になりました。僕はお店で現物を見て買う行為そのものが好きなので、実際にお店へ足を運んでみたり、なかったら何軒も探してみたりなんてことを楽しんでいますが、それでもなかなか手に入らないものや現物を見なくても分かっているようなものについてはネットで購入することが多いです。

 そんな中、ここ最近ラーメン屋さんのネット通販が顕著に売上げを伸ばしています。カップ麺や食品メーカーが作ったお土産ラーメンではなく、お店の厨房で作ったそのままの味を宅配するシステム。長い行列に並ばなくともお店の味が楽しめるとあって大人気です。そんな中、時々お店のチャーシューを販売しているラーメン屋さんがあります。自慢のチャーシューを1本丸々!といって、ラーメンに乗せるだけではなく、おかずの一品として、あるいはお酒のおつまみとして人気を呼んでいるようです。しかし、どうも僕が思うにほとんどのお店の場合ルール違反ではないかと思う部分があるのです。以下は僕が実際に調べたり直接聞いた範囲での話ですので、実際にはそうではないケースもあるかも知れません。あくまでも山路の私見である、その前提でご覧下さいませ。

 チャーシューというのはご存知の通り、豚肉を煮たり焼いたりして味付けして作るものです。これは食品衛生法上「食肉製品」というカテゴリに分類され、チャーシューを作ってチャーシューとして販売するには「食肉製品製造業」にあたり、当然製造販売には許可が必要になります。そして食肉製品製造業の免許取得は、厨房設備をはじめ成分規格なども厳密で、僕の感覚的には普通のラーメン屋さんで取得するのはかなりハードルが高く現実的に不可能ではないかと思うのです。というのは、僕がコンサルティングしているいくつかのお店でチャーシューのネット販売を計画した時に学んだことなのですが、厚労省や地域管轄保健所とやりとりしていく中で、販売は厳しいという結論に達したのですね。きっちり食品衛生法のルールに乗っ取ってチャーシューをネットなどで販売しようとすると、普通のラーメン屋さんの厨房ではまず無理なようなのです。

 細かい部分は割愛しますが、一つ例を挙げれば1つのお店で2業種以上の許可を取得する場合、原則として業種ごとに専用の部屋が必要だったりするのです。また汚染作業と非汚染作業について作業区域も明確にしなければなりませんし、冷凍冷蔵の設備もしっかりやらないといけない。そうやって厨房設備を作ろうとすると増築したり衛生面をクリアにしたりと偉いことになります。とあるお店の厨房は相当立派で大きなものでしたが、保険所的にはNGという答えが返って来ました。なので、普通のラーメン屋さんで普段作っているチャーシューを売るというのはどうやら厳しいと言えそうです。

 この問題について「惣菜扱いなので大丈夫」という見解が一部あるようですが、少なくとも僕が聞いた保健所ではチャーシューは「食肉=ハム、ソーセージ、ベーコンその他これらに類するもの」にあたるとの立場でしたし、仮にもしチャーシューが惣菜扱いなら対面販売しない限りは「そうざい製造業」としての資格が必要です。ちょっと話は逸れますが自家製麺のお店で生麺を販売するのも「めん類製造業」の許可が必要になるようです。同一食品でも営業形態の違い、売り方によって許可業種が異なることが多いのですね。そのあたりは酒税法における「酒類の販売業免許」にちょっと似ていますね。お店で飲む分を売るには問題ありませんが、テイクアウトを売るには免許が必要なのと一緒というか。

 ネット販売ではなく、店頭でチャーシューを売ったりする場合はどうなのか。これは色々な解釈がありますが、先ほどの「そうざい製造業」の話にも出て来たように、製造された場所での対面販売であれば「飲食店営業」の許可だけでOKということになりそうです。実は仕出し屋さんや弁当店って許可は「飲食店営業」なのだそうです。つまりその場所で作られたものをその場所で売っている分にはOK。お店で食べさせているものをテイクアウトさせている、という解釈になるのならば大丈夫なわけです。ですから、本店と支店があったとして本店で仕込んだチャーシューを支店で売るのはアウト。あるいはどこかの物販店に卸したりするのもアウト。ですから当然、インターネットの通販となればこれもアウト、ということです。

 それでもネットショップで出店しているラーメン屋さんでは普通にチャーシューを販売しています。上記のような背景を知っていて売っているとすればそれはそれで酷い話ですし、逆にそういうことを調べていなかったり、まったく知らずに売っていたとしてもそれは飲食業を営む資格がないと考えます。またそれを売らせているネットショップですが、ネットショップは飲食のみならず扱っている品目も多いですし、その部分は当然のことながら出店者任せになっているようです。確かにネットショップをテナントの大家だと考えればそこまで責任は持てないでしょうが、サイトの作り方ばかり指導するのではなく、そういうコンプライアンスの部分もアドバイスすべきだと思うのですが。

 ちなみに僕が聞いた保健所の見解では、ネットで販売する場合、自家製のチャーシューは単体でなくても、ラーメンの具として同梱して販売することもダメだそうです。麺とスープがあって、そこにチャーシューを別添の袋とかでつけてもダメ、ということ。そのチャーシューが食肉製造業の免許を取った加工業者に外注している場合はもちろんOKですが、それをクリアしていない自分の店の厨房で作ったものならばアウトということになると思います。

 そうなると、おそらく大半の人が最近流行の「有名店のストレートスープによる通販ラーメン」を思い浮かべると思います。そこにも自家製チャーシューが入っていますが、その場合もNGなのでしょうか?実はこの場合は合法でまったく問題がありません。なぜこの場合OKなのか。この場合、チャーシューはスープの袋の中に入っています。チャーシューは「スープの一部」として認識されますので食肉製品とは見なされなくなるのだそうです。そんなもん同じじゃないか、と思われる人もいるかも知れませんが、それがルールというか保健所の解釈なのです。余談ですが、この手の通販ラーメンを扱う最大手の担当の方とお話をしたことがありますが、無論常時保健所の方とやりとりをされて指導を仰いでいるそうですし、出品されているラーメン店の方に対しても衛生面での留意点について呼びかけたり、時には勉強会を開くこともあるそうです。食品を扱う以上当然の姿勢といえばそうですが、さすがだなぁと思いました。

 ただこの問題には一つ別の視点があります。そもそも上記のような通販ラーメン自体が「そうざい」に当たるという解釈です。某人気ラーメン店では保健所からそのような指摘を受け、専用の厨房を作り「そうざい製造業」の許可を取ったのだそうです。これに関しても自治体や保健所の裁量、場合によっては担当の人の判断如何の部分があるので何とも言えませんが、なかなか興味深い指摘ではあります。

 僕が実際に保健所に聞いたり通販に取り組んだお店の方とやりとりした中での結論は上述の通りですが、実際の運用などは保健所や担当の方の解釈や裁量によるようですので、チャーシューを販売しているお店で保健所からお墨付きを貰っているお店ももしかしたらあるのかも知れません。しかしここで大事なのは食物を扱う仕事をしている以上、まずはしっかりと調べて怪しい部分があるならば担当の保健所とやりとりをしてお墨付きを貰う努力が必要ということ。それが飲食をビジネスにする人の常識というかモラルではないかと思うのですが、ことラーメン屋さんにおいてはコンプライアンス意識が低い人がとても多いのです。僕がこういう話をすると「え、そうなんですか!」なんて驚いている。常識的に考えてまず食品を売る場合に食品衛生法とかと照らし合わせるでしょうに。

 以前、某大手ネットサイトでチャーシューを売っているお店があって、そこのご主人を知っていたのでこの話をしたことがあります。問題あるかも知れないから、保健所に相談するなりして調べた方がいいよと。その時にはやはり問題があるので販売をやめるようなことを言っていましたが、今でも普通に売っています。以前はチャーシュー単体で売っていたのを、今はラーメンなどとセットで売るようにしたようですが、ルールを拡大解釈しているのかどうかは分かりませんが、少なくとも僕の調べた限りにおいてはルール的に問題があるのは前述の通りです。

 きっと大半のお店の方はそのことを知らないし、知っている方はバレなきゃいいだろう?と、お伺いは立てず、通らばリーチ的なやったもん勝ち的な姿勢で売ってるお店がほとんどかと思います。しかし法を守るということは法に守られるということでもあるのです。もし万が一販売したチャーシューで食中毒などのトラブルが出た場合どうなるか。もし保健所の指導下に置かれた環境で、免許を得た上で製造販売していればまだダメージは少なく済みますが、ルール違反した環境下で食中毒でも起こそうものならもう申し開きが出来ないわけで。そういう想像力に欠けるというか、リスクマネージメント意識が足りない人がビジネスを、特に飲食ビジネスをやってはいかんと思うのです。

 誤解のないように書けば、お店のチャーシューを販売することそのものがいけないとか、不衛生であるとか、そういう話ではもちろんありません。食品衛生法という決められたルールに照らし合わせてビジネスをしているのかどうか、という一点のみの話です。個人的にはそのルールの方に無理があるよなぁと思いますし、保健所とかはお役所仕事ですから非現実的なことを平気で言います。でもそれは現実的じゃない、と言って無視して好き勝手やったらどこかの国と一緒です。現状のルールがそうである以上それを遵守しなければなりません。

 あらためて、飲食業を営む人には高いコンプライアンス意識が求められます。電話の出方が酷いとか名刺の渡し方を知らないなんて笑い話とは違い、これについてはマストというか最低限のスキルではないかと思います。(2011.12に一部加筆修正しました)

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Monday, 20 September 2010

ビジネスとしてのラーメン屋

Donにこれだけのラーメン店があると、当然のことながら色々な業態のラーメン店があります。大手の激安チェーン店から、自宅で自分一人で営んでいる個人店まで。もちろん他の飲食でも基本的には様々な業態があるのは同じですが、ことラーメンに関してはその部分に関して消費者側の受け止め方が実に曖昧なように感じています。

 分かりやすく言えば例えばハンバーグを例に取った場合に、ファミレスのハンバーグと街の小さな洋食店のハンバーグ、あるいはステーキ屋さんのハンバーグ、ビストロのハンバーグ、それらを十把一絡げ的に論じたりすることはないと思うのです。しかしラーメンという世界はそうではなく、結構そのあたりがグチャグチャと言いましょうか、あまり区別をしていない節があるのです。

 あるラーメン店に行った時のこと。そこは個人で営まれているお店でしたが、そこから出て来たお客さんが大手チェーン店を引き合いに出して、そっちの方が安くて良いというような話をしていました。また別のケースでは多店舗展開しているお店と個人店を比較して、個人店の方が手間ひまがかかっていて美味しいというような話をしているのも聞いたことがあります。これを日本蕎麦と置き換えると分かりやすいと思うのですが、例えばせいろが一杯1000円するような手打ち蕎麦店の蕎麦店で、立ち食い蕎麦の方が安くていいなと言ったり、逆に立ち食いよりも手打ち蕎麦店の方が美味しいみたいな乱暴な話はしないでしょう。しかし、ラーメンではそれがあるのですね。

 そこが混乱している原因の一つには、価格の問題があります。先に例を出したハンバーグや蕎麦については、明らかに価格でその区別が出来る訳です。さらに店の格というか雰囲気がありますね。やはり立ち食い蕎麦店の内装と高級蕎麦店の内装ではまったく違います。そしてラーメンという食べ物の急激な進化もあるでしょう。ラーメンはこの数十年で製法や品質、その他多くの部分で劇的に進化、向上しました。それに対してラーメンに対する消費者の意識が追いついていないのです。ラーメン一杯1000円が高い、と単純に考えてしまう。パスタなら普通に1500円でも払うのに、です。なのでラーメンについては価格帯が非常に狭い。それも消費者が画一的に眺めてしまう理由でしょう。

 そしてもう一つ。ラーメン屋さんの中にはラーメンをビジネスとして捉えていない人が少なからずいるのです。それを「趣味」とは言いませんが、少なくとも「事業部」としてのビジネスではない。「家業」としてのラーメンと言いましょうか、美味しいものを提供出来るなら多少自分の収入が少なくても、といったようなスタンスで営業をされているお店があるのです。原価の低いものを加工し付加価値をつけて、いかに高い売価をつけて売るかというのが飲食ビジネスの基本ですし、間違いなく正義なわけですが、その論理はそういうラーメン店には通用しなかったりします。事業部として動かすラーメンと店主の思いで作るラーメンは分けて考えなければいけません。

 簡単に言えば、地代家賃が発生し自分以外の社員やその家族も抱えたラーメン屋さんと、自宅を使って家族で切り盛りするラーメン屋さんとでは、自ずと責任の度合いや目指すものは違うということです。どちらが良い悪いではなく、その2杯のラーメンをどっちが旨いだと不味いだの語るのは、そもそもの土俵が違うわけですからおかしな話だなと思うのです。

 ラーメン屋さんが一軒でやっていた時は美味しかったのに、多店舗展開することによって味が落ちたという話を聞きますが、その理由は例えば現場に店主がいなくて目が行き届かなくなったからとか、もちろんそういうケースも一部にはあるでしょうが、基本的にはそんな話ではありません。社員も抱え取引業者も増えてくれば、自分一人でやっていた時のような、寝ずに寸胴の前で一日つきっきりだとか、原価無視で自分が喰える分だけの上がりが取れれば良いみたいな、経営的な観点からすればバカなことが出来なくなるだけのこと。

 しかし同じ価格帯という土俵の上で、様々な業態、意識、姿勢のお店が混在しているからこそ、ラーメンの世界は他の飲食業界よりも面白いとも言えなくもありません。だからこそ、受け止める消費者の側で店を精査する意識というのも必要なようにも思うのです。

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ラーメン屋はなぜすぐ潰れるか

Tebo年より「twitter」なるものを始めて1年以上になりますが、情報収集のみならず色々有意義なディスカッションというか意見交換が出来てとても楽しく活用しています。しかしせっかくつぶやいたこともすぐ流れていってしまったりして、それがツイッターの良さでもあるわけですが、ちょっと寂しい気もします。もちろん過去ログは僕のツイッターのページや「Twilog」でも見ることが出来るわけですが、このブログでも時々つぶやきを整理して文章としてまとめてみようと思っています。

 そんな中、今日「超らーめんナビ」の達人としても有名な、ラーメン評論家の山本剛志さんとやりとりをしている中で、日頃思っている「ラーメン屋さんが潰れる理由」についてツイートしたので、それを今回は加筆修正、再構築してこの場で今一度書いてみようかと思います。

 仕事柄、ラーメン店の開業を考えている多くの方にお会いしますが、ほぼ100%の確率で売上げ予測がとても甘く、その甘いラインを前提にした上で色々と計算しているものですから、いざ蓋を開けてみるとすぐパンクするんです。開店してすぐに客がつくなんて言うのは絵空事。無論開店景気というものはありますが、それはよほどの好立地に出店するか、あるいは人が集まるだけの広告を打つ必要があります。集客という結果が即座に出なければ生きて行けないようなビジネスモデルを描いている時点で、リスクマネージメント能力に欠けるというか、事業部ではないなと思うのです。当然のことながら、開店当初は集客出来ないという前提で店を続けられる策を練るべきで。あまりにも出たとこ勝負の店が多過ぎます。そうすると開店して数ヶ月で閉店、なんてことになるのです。

 例えばお蕎麦屋さんの場合、開店して3ヶ月とか半年で潰れる店なんてまず聞いたことがありません。お蕎麦屋さんはまず開業するのにラーメン店よりもお金がかかります。店舗を作る段階でも内装のデザインから造作、調度品などにもかかりますし、厨房も釜を組まなきゃいけませんし、食器等も種類も多く質も良いものを選びますのでかなりかかります。イニシャルコストがラーメン店とは全然違うので、お店を始める上での覚悟が違います。居抜きでチャチャっと始めようなんてのとは了見が明らかに違うのです。

 さらにイニシャルコストがかかるので、事業資金は基本的に銀行から引っ張ることになるわけですが、そうすると事業計画も綿密にやらなければお金は下りません。でもラーメン屋さんは数百万で出来るから自己資金とか家族に借りて用立てする。第三者がその計画を精査しているか否か、この部分も相当重要なポイントです。銀行は絵空事や熱い夢に金を突っ込みませんから、金を引っ張れるということは客観的にみてそのビジネスには可能性があるということです。逆に自分とか身内の金で始める場合には、事業計画が杜撰でも勢いでことが進んでいきますから非常にリスキーなわけです。さらに、仮にビジネスが上手くいかなかった時も、銀行から借りていれば返す義務があるわけですから、それは真剣になりますが、自己資金を突っ込んでいる場合は最終的には自分が泣けば良いと諦めてしまうケースも少なくないのです。

 また開業する上での心構えもまったく違います。お蕎麦屋さんを始める人の大半は、お店をやる前に修業に入ってしっかりと基本を学び、技術と信念を持って始めますから、そうそうぶれることもないですし応用がいくらでも効く。ラーメンの場合は他の仕事で失敗し「とりあえずラーメンでも」などという行き当たりばったりな理由で始めた人も少なくありません。そういう人は基礎も出来ていなければ技術も信念もありませんので、すぐ壁にぶち当たる。オープンしてから味で悩んでお店休むとか、スープ不出来で店を休むとか、そういう恥ずかしいことをしている業界はラーメンくらいのものでしょう。

 古くさいかも知れませんが、修業や基礎、学習って大事だと思うのですね。包丁が使えなくても確かにラーメン屋さんにはなれますが、料理人としての誇りがあるならば包丁が使えないで厨房に立つなんてのはあり得ないわけです。麺を自分で打つ必要はないかも知れませんが、麺が打てるようになった上で製麺所にモノを言うべきなのです。そして他の料理を学んだり、時には書道や絵画など芸術的なセンスも高めたり、本を読んだりと表現者としての幅を広げるべきなのです。そしてその学びの手は決して緩めてはならない。

 しかし大抵のラーメン屋さんは開業がゴールだと思っているのです。飲食の世界で言えば、開業して4〜5年なんてのはペーペーもいいところですが、自分の味も定まらぬうちに数軒支店を出しただけで、社長気取りでゴルフや女に興じて遊び回り厨房に立たない店主なんて、吐いて捨てるほどいるのがこの業界です。そういう人を見ると上辺だけしか見ていないのだな、先が見えてないなといつも思うのです。で、現にそういう人で十年持った人をあまり見たことがない。実に愚かだなと思います。

 今、仮に失業したり異業種から飲食業を始めようとした場合、おそらく参入障壁が一番低いのがラーメン業界だと思います。しかしハードルが低いすなわち簡単ということでは決してありません。そこを勘違いして入ってくる人、つまりはラーメンをなめている人間が簡単に潰れていくのです。

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Wednesday, 11 March 2009

紅蓮@早稲田

Gurenm稲田大学の目の前に先月オープンしたばかりの新店です。かつてデーモン小暮閣下も通った予備校「早稲田ゼミナール」の早大正門校だった建物は、いつしか本家の早稲田大学によって占拠されてしまっていますが、その元早ゼミ校舎、現「早稲田大学エクステンションセンター」の正に目の前に「紅蓮」はあります。赤い看板に手書きで大きく「紅蓮」と書かれています。隣には「日本のガウディ」とも呼ばれる建築家梵寿綱氏が手掛けた有名な「和世陀(ドラード早稲田)」があります。場所としては非常に良い立地だと思いますが、現在大学はお休み期間中ということもあって、お昼時でしたが話題のお店とは思えぬほど拍子抜けするくらいに空いていました。

 こちらの紅蓮というお店は現在プレオープン中ということで、メニューは「極濃海老つけ麺(写真上)」(750円)のみに絞っており、営業時間も売り切れ仕舞となっています。福生の人気店がその店を休業にしてまで新たな挑戦をしている店、ということでオープン以来色々なところで話題になっているお店です。個人的にはあまりつけ麺というものに食指が動かない人なので、プレ期間も終わりつけ麺以外のものが出て来てから足を運ぼうかなとも思いましたが、逆にいえばプレ期間で一品しか出さないところにつけ麺を置くということは、相当な自信の表れと言えるかも知れません。というわけで足を運んでみた次第なのです。

 店内はすっきりとした感じで、床などはコンクリートむき出しで、スタイリッシュなイメージです。コの字型のカウンターで厨房はその奥にあります。券売機には「油そば」や「焼皿あえそば」など色々とメニューが書かれていましたが、現在はつけ麺のみ。200gと300gは同料金で400gの大となると850円になります。また、お昼時はライスがサービスになるようです。ここらへんは学生を意識した構成といったところでしょうか。食券を出すと麺の量と茹で時間に10分ほどかかりますがよろしいですかと聞かれます。麺は普通盛でお願いします。また茹で時間については、10分というのは一昔前ではあり得ない時間ではありましたが、今ではつけ麺で5分以上かかるのは当たり前のようになりました。美味しいものには時間がかかるというのは昔から不変の法則であります。

Gurentare そしてまず最初につけダレが出て来ます。グツグツぶくぶくと泡を立てながら器ごと熱々にされたつけダレからは驚く程香ばしい海老の香りが立ち上がっています。この香りにそそられない人はいないのではないでしょうか。海老好きの僕からすればなおのこと。そして程なくして麺がやって来ます。艶やかな表情をした太麺はしっかりと水で締められています。麺を見た瞬間10分という茹で時間は少々長いのではないかと思いましたが、一口食べて長めに茹でている理由が分かりました。

 と言うのも現在主流となっている多加水太麺のつけ麺の場合、得てして「コシ」という言葉の下に硬めに上げる傾向があり、それを食べさせられた客達はその硬さを「コシ」と思い、結果としてその硬さのものを美味いと感じまた追い求めるという悪循環になっており、さらに茹で時間の短縮は回転率のアップにも繋がりますので、今つけ麺の大半は適正な茹で時間になっていないというのが現状ではないかと感じています。しかし製麺所の方や製粉会社といった麺や粉のプロ、あるいは自分でしっかりと粉から勉強をされているラーメン店の方は、やはり口を揃えて適正な茹で時間はもっと長いと言います。実際、製麺所が適正と言っている茹で時間のものを食べると、いわゆるコシと皆が言うような食感は薄れますが、硬さよりも歯を受け止めるどっしりとした食感を持っていて、しっかりと水が粉に入っていて、より食べ応えがあると感じられるのです。そして適正な茹で時間の麺を食べ慣れると、世のつけ麺は大体が茹でが足りなく粉っぽさがあり、生茹でに近いような感覚にとらわれます。

 もちろん人の好みもありますし、これは何が正解でということはないのですし、正しい茹で時間というものの定義ももちろん曖昧なことです。しかし現在つけ麺に限らずマジョリティは硬めの麺だと思います。そんな中、こちら紅蓮の麺は硬くありません。しかしそれは茹で過ぎというのではなく、しっかりと火を通していて麺の適性を十二分に引き出した茹で時間という印象を持ちます。麺に水分が入って火もちゃんと通っているので、結果として麺もへたれることがなく、いつまでも状態が変わらないのです。つけだれをつけずに麺だけを食べると変態扱いされる昨今のようですが、こちらの麺はまず麺だけで食べてみると世のつけ麺の麺との違いが分かるのではないかと思います。おそらく通常の店ではこの麺はあと2分程度は早く上げてしまうのではないでしょうか。この2分というのが回転率などを考えると一つの悩みどころというか、分岐点になってくると思うのですが、その2分をしっかりと待つところが素晴らしい。つけ麺はやはり麺を食べる食べ物ですから、麺としっかり向き合っている姿勢は立派です。

 そしてつけダレ。正直つけ麺は熱いつけダレに冷たい麺をくぐらせるわけですから、冷めていくのは当たり前なわけで、それに対して石を入れたり器を焼いたりなどというのは無駄な抵抗と言いますか、つけダレが冷めていく現象に対しての正しい対峙の仕方としては、丸長@荻窪のように対処するしか正解はないと思っているわけですが、そうは言ってもやはりつけダレを熱いままで食べたいというのは、つけ麺を食べる者の欲求としては至極当然のことであろうかとも思います。そしてそれに誠実に対処しているお店を見ると立派だなとも思うわけです。こちらの店では器ごと熱しているのでしょう、泡がグツグツぶくぶくと出るほどつけダレが煮えたぎっています。熱さというものは味覚を狂わせますが、こちらの濃厚なつけダレではその心配も不要。熱々なのに味が分かるのです。

 その味は濃厚でさらり。しつこさはまったくありませんが、物足りなさもまったくない。ベースとなっているのは粘度の高い鶏白湯スープで、そこに香ばしい海老の味わいが足されています。時折油葱のクリスピーな食感が心地よく弾けます。しっかりと茹でられた麺との絡みも良く、艶やかな麺を纏うかのようにつけダレが包みます。これならば300gでも良かったかなと少々後悔。またこのつけダレに下品ながらもご飯を入れたらさぞかし美味かろうと、サービスライスを頼まなかったことを更に後悔。最初熱々だったつけダレが少しずつ冷めていくのは当然なのですが、冷めていくにつれてスープの味わいが分かるようになり、うま味がぐいぐいと上がって感じます。最初が思い切り熱かったからこそ、この変化を楽しむことが出来るわけです。

 そして最後のスープ割り。これは厨房ではなくカウンターに置かれているウォーマーで配されます。このスープ割りがまた美味い。強い主張をしていた鶏と海老がマイルドになり、優しく食事の最後を締めてくれます。これは汁そばも期待出来そうな味わいです。僕は普段あまりスープ割りを好まないのですが、これはあっという間にすべて飲み干してしまいました。

 新しいお店、特につけ麺に関してはあまり唸らない僕ではありますが、麺もつけダレもスープ割りも文句なし。こちらのお店のつけ麺は参りました。海老嫌いの方でなければ迷うことなく行かれることをお勧め致します。

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Guren■ラーメン:紅蓮
東京都新宿区早稲田鶴巻町517-2合田ビル1F
11:00~売切れで終了
無休

Sunday, 08 February 2009

ラーメン梅乃家@富津

Umenoyam葉を代表するご当地ラーメンというか、地ラーメンとして有名なのは何と言っても「竹岡式ラーメン」ということになるでしょう。真っ黒い醤油スープに刻みタマネギ、醤油が香るチャーシューに麺は中細の縮れ麺。千葉の特に内房の人たちの嗜好にマッチして、北は市原あたりから南は南房総にいたるまで広がりを見せる竹岡式ラーメン。ちなみにこの「竹岡式ラーメン」という呼び名はあくまでもラーメンフリークやマスコミ用語に過ぎず、当の地元の方達はよく「房総ラーメン」という言い方をします。いずれにしてもこのご当地ラーメン「竹岡式」発祥のお店が竹岡漁港に創業して半世紀以上の老舗「梅乃家」です。

 よく雑誌やインターネットなど色々な場で、この「竹岡式」の定義であったりスタイルについて語られることが多いのですが、意外にも正しい竹岡式を知っている方や正しい竹岡式の情報が記されている記事は少ないのです。あくまでも竹岡式ラーメンの発祥とされる「梅乃家」を基本とした場合ではありますが、ご主人の坂口さんから伺ったお話を以前別のブログに書いたことがありますが、その記事をベースに間違いやすい竹岡式の知識をあらためてこの場で整理して再び書いてみようと思います。

 まず「竹岡式の麺は乾麺」という点について。当然麺は乾麺を使うのが基本ですが、それには理由があるのです。通常ラーメン店では、修業した技術のある方など決まった人が必ず麺上げをしています。それはその日の麺の状態などを見切って作るなど経験や技術が必要な作業だからです。しかし「梅乃家」ではパートのおばさんなど、作り手が素人であるばかりか、日によって違う人になります。そこで、どんな人でも同じように作れる麺ということで乾麺を使用することになったのだそうです。無論、麺の在庫管理がしやすいということもあると思います。

 また「乾麺でなければ竹岡式ではない」という指摘がよく見られますが、それは心情的には非常に同意出来る部分ではありますが、梅乃家でも乾麺以外に生麺を用意している事実からも決して正しいとは言い切れないと思います。そして実際に内房で同様のラーメンを出している店の大半は乾麺ではなく、生麺を使用しているのが現状です。ちなみに梅乃家で使用している乾麺は千葉市にある老舗製麺所「都一」製で、一杯のラーメンに約1玉半を使って作ります。作る時に乾麺をパキッと2つに割って合計1個半を投入するのです。また、他の店の生麺はたいていのお店が木更津にある「文明軒」というところの麺を使用しているはずです。

 またよく雑誌などでも記されている、「チャーシューの煮汁を乾麺の茹で湯で割る」というのは、実は間違いである可能性が強いです。もしかしたら昔はそうだったのかも知れませんが、少なくともここ数年梅乃家において私が見た限り、あるいは坂口さんから直接お話を聞いた限りにおいては、麺を茹でた茹で湯は捨てて、新しいお湯を丼に注ぐということになっています。理由は簡単で、茹で湯だと味がぼやけてしまうから。まっさらなお湯の方がスープが美味しくなるからだそうです。ただ醤油ダレに関しては別に作らず、チャーシューの煮汁というかチャーシューを煮た醤油を使うというのは間違いではありません。

 では「チャーシューは炭火で仕込む」という点はどうでしょう。これは似たような味を持つラーメン店で、炭火で仕込んだチャーシューを売りにしている店があったので、そのように思われている部分も多いと思います。また実際に梅乃家でもかつては大きなボールを七輪に乗せて、チャーシューを仕込んでいたそうです。しかし小さな七輪の上に大量のチャーシューの入ったボールを乗せると、非常にバランス、安定性が悪くなり、ひっくり返したり火傷したりといったことが何度かあったのだそうです。ですので、現在梅乃家のチャーシューは「ガス」で煮込まれています。しかし七輪は今でも梅乃家の厨房で活躍しています。それは麺を茹でる時に使われているのです。チャーシューは「ガス」ですが、麺茹では「炭火」が梅乃家の流儀。理由は炭火の方が麺がふっくらといい食感になるからだそうですが、本当にそうかどうかは比較したことがないので私には分かりません。

 ここまではいわゆる「梅乃家」のラーメンの話ですが、ご当地ラーメンとはフランチャイズのラーメンではないわけで、梅乃家のラーメンと全く同じである必要はないと思いますし自然伝播的に広がっていくのがご当地ラーメンであるならば、この派生形を見ていくのもまたラーメン文化の楽しい捉え方ではないかと思います。

 そうすると緩やかな基準にはなるかと思いますが、僕が個人的に考える「竹岡式」なり「房総ラーメン」と成りうる要素を列挙するとおよそ次のような感じになるでしょうか。

・醤油が立ったスープバランス
 (出来ればチャーシューの煮汁をタレに使用して欲しい)
・あまりダシの出ていない醤油色の黒いスープ
 (お湯もしくはさらっと取った軽いスープ。色は醤油の真っ黒で)
・食感、味にあまり感動しない麺
 (出来れば乾麺が望ましい。自家製麺などもっての他)
・ごろっとした大降りのチャーシュー
 (色々な調味料の味よりは醤油直球勝負の味)
・薬味は刻みタマネギ
 (刻み方はほどよい大きさで。もちろん増量可能)
・価格が安い
 (せいぜい600円程度が上限ではないかと思います)

 本家の梅乃家以外で、この系統のラーメンで人気のお店としては「富士屋ラーメン」「ラーメン天一」「四馬路」「ともちゃん」などが挙げ始めればきりがありませんが、どこもこの要素に沿ったラーメンを提供しています。それでいてどこもその店独自の味になっている。ここらへんがラーメンの面白いところです。

 さて、梅乃家に話を戻せば、久々に足を運んでみましたが相変わらずの美味しさでした。食べるのはいつも「ラーメン+やくみ(玉葱)(写真)」(650円)。無論、スープはお湯なわけですから、鶏ガラや豚骨を入れた方が食べ物として美味しくなるのは間違いなく、麺もおそらく生麺の方が美味しいのでしょうし、油も香り油などを浮かべた方が香りも良くなるのでしょう。しかし、それでは梅乃家のラーメンにはならないのですね。柔目に上げられた乾麺がスープを吸ってぐずぐずになっていくのが美味しく、醤油臭いチャーシューがまた美味しいのです。竹岡で半世紀以上に渡り愛されてきたこのラーメンを否定出来る人は誰もおらず、またそれはやってはいけないことでもあるのです。そう考えるとラーメン評論であったり、あれが美味しいこれが不味いと言っていること自体がとても不毛なことに思えたりもします。

 ノスタルジックラーメンという括りだけで見るわけではなく、ラーメンとはルールがなく各店のオリジナリティが詰まった食べ物であるという観点からも、これほどまで独創的なラーメンはありませんし、また支持を集め売れているラーメンが偉いという話で言っても、本当にここのお店はいつも行列で人気です。得てして老舗店などというと今はひっそりとというお店が多い中、梅乃家は県内でも一二を争う程の人気店。こういう力強い老舗があるというのは心強くまた嬉しいことでもあるのです。

Umenoya■ラーメン:ラーメン梅乃家
千葉県富津市竹岡401
0439-67-0920
10:00~19:00
火曜定休、月曜不定休

Saturday, 07 February 2009

ラーメン施設の光と影

Rg2日のエントリーでも書きましたが、千葉初のラーメン複合施設である「千葉ワンズモールラーメン劇場」が昨年秋にリニューアルして注目を集めています。しかしどんなに美味しいお店を揃えてもこういう施設の場合、6軒もあれば人気のある店とそうでない店が出来るのは事実です。実際お昼時にラーメン劇場に足を運んでみても、ある店は行列していますがある店は数名しか入っていないということがあります。人気店とそうじゃない店があるということ自体は、もちろん「新横浜ラーメン博物館」などでも見られることですが、片や大行列で片や閑古鳥というような差はないように見えます。ではなぜラーメン博物館ではそうならず、ラーメン劇場ではそうなってしまうのでしょうか。かつて別のブログで書いた文章をベースにあらためて考察してみましょう。

 ラー博のヒット以来、似たようなラーメン施設が全国に出来ました。今でこそ随分と落ち着きましたが、一時期は各県に最低でも一つや二つはあったのではないでしょうか。現在都内だと似たような施設として有名なのは品川駅にある「品達」や、お台場の「ラーメン国技館」、立川の「ラーメンスクエア」などが挙げられます。これらは成功している事例ですが、大半の施設は集客がどんどん落ちて閉館しています。成功している事例の施設はやはり色々と仕掛けていますし、店選びもいい店を選んでいて勢いがあります。一方廃れていった施設はやはりそういう部分が弱かったように思います。

 しかし根本的にこの手のラーメン施設というものは、ラーメン博物館がヒットしたからと言って同じように成功することはないと思っています。なぜならばラーメン博物館以降に登場した似たようなラーメン施設は、あくまでも「似たような」で施設であって、本質的には「異なる」施設だからです。それは内装がどうの、店選びがどうの、デベロッパーの思いがどうのといった問題ではなく、あくまでも施設の有り体としての本質的な問題です。

 ラーメン博物館はラーメンを食べる目的の人のための施設ですが、それ以外のラーメン施設は実はそうではありません。他の施設は厳密に言えばラーメンコーナーであって大型SCなり、駅ビルなり、映画館なりに付随しているもの。ここが非常に重要なポイントなのです。ラーメン博物館の中にいるお客さんは間違いなくラーメンを食べに来ているお客さんです。定期券を持っている近隣のオフィスで働いているような人は別として、基本的に中にいるのは入場料を払ってまでも中に入ってきたお客さんですから、確実にミニラーメンであろうとも、食べ歩きをしようと考えています。しかし例えばラーメン劇場の中にいるお客さんはラーメンを食べることが目的で来た人はほとんどいません。大半は、ダイエーなりトイザらスなり、ゲームセンターなり端的に言えば、ワンズモールへ買い物、遊びに来たお客さんです。ラーメン博物館とラーメン劇場では相手にする客の根本的な質が全く異なるのです。

 この本質的な違いが、店の売り上げにも影響してきます。ラーメン博物館の場合は、一人2〜3軒はハシゴするでしょうし喉が渇けばジュースなども飲むでしょう。半ば観光気分で来ている人もいますから物販もさばけます。ということは、施設全体で見た時の客単価が間違いなく高いはずです。客というパイを施設の中で上手に分け合っています。またラーメン博物館に来るお客さんの心理としては3軒食べるとすればバランスを考えるでしょう。例えば「欅」で味噌を食べて、「ふくちゃん」で豚骨。締めは「春木屋」であっさり醤油、であったり、あるいは「蜂屋」で一風変わった味にも挑戦してみよう、といった遊び心が生まれてきます。つまり、ラーメン博物館でラーメンを食べることは「娯楽」です。

 一方、ラーメン劇場のようなSC付随型ラーメン施設の場合、いわゆるラーメンフリークを除けば、大半のお客さんは1軒に絞り込んでラーメンを食べるはずです。そうなるとラーメン劇場内のみならず、マクドナルドやドトールコーヒーなど施設内全ての店が競合店となり、要は施設全体でパイの取り合いです。ですからこういう施設ではミニラーメンもあまりやりたがらない。それは施設全体の収益は上がりますが、個店レベルでは売り上げが下がってしまうからです。そういう施設の中ではお客さんも下手な冒険をしようとは思わなくなり、失敗しないであろう無難なラーメンを食べようとするはずです。かつてラーメン劇場で数ヶ月で退店した某店を例に取れば、一般のお客さんが普通に食事をしようとラーメン劇場に来て、果たしてトムヤムクンラーメンを選ぶでしょうか。つまり、ラーメン劇場でラーメンを食べることはあくまでも「食事」なのです。

 そんな中で、僕が考えるこういう施設で強い店の要件としては以下の3つです。一つは認知度の高いご当地ラーメンをウリにしているかどうか。例えば札幌味噌ラーメンであったり、博多豚骨ラーメンであったり。ラーメン好きではない一般客からすれば、やはり保守的と言いますか知っている名前のものを食べたいと思うはずです。そしてもう一つはそういう個性は保ちつつもファミリーで入りやすい店。一般客の家族連れには、やはりバリエーションのある店が強いのです。味噌でも塩でも醤油でもある、といったような。しかしこれはただそれらのメニューが並んでいる、ということではなくて、あくまでも特徴のある主役のラーメンがあることが前提です。例えば札幌味噌ラーメンが看板メニューでありつつも、ちゃんと醤油も塩も用意されている、というような。そしてもう一つはしっかりと差別化をアピールする能力を持っている店。6軒を並べてパッと見た時に直感的に選ぶのはやはりアピールの上手なお店になるでしょう。キャッチコピーやPOP、メニュー開発のセンスなども重要になるでしょう。いずれにせよSC付随型ラーメン施設では、一般客が一番目や二番目に選ぶような店にならなければ商売になりません。そしてそんな強いお店は多くの人の支持を受けて1軒に絞り込まれた店であって、そういう店と5番手6番手の差はかなり激しくなるのは仕方のないことです。

 そう考えるならば、ラーメン施設とすればキワモノの店を用意せず万人に受け入れられる店を並べればいいと一瞬思いますが、それでは施設全体のバランスとして成り立ちません。やはり同じような店が並んでいるラーメン施設には魅力がない。やはり色々なラーメンを出す店があってこそこういう施設は成立するのです。そうなると必然的に貧乏くじを引く店が出て来てしまい、実際これまでもこのラーメン劇場ではそういう傾向が多々見られました。しかし今回は基本的には1社の全面出店という形になっていますので施設全体での収益を考えればいいわけですから、ミニラーメンもやりやすくなりますし、これまでに較べればその弊害はかなり少ないと思うのですが、そうは言ってもやはりあまりにも閑古鳥が鳴いているような状況では、やはりテコ入れは必要になってくるでしょう。

 今回リニューアルしたラーメン劇場でも新規オープンした6軒のうち、蕎麦を麺に練り込んだ新しいつけ麺「特製もり鴨」の「田代笑店」とタレントの名前とピンク色の麺で話題になった「ボヨヨンラーメンウマインジャー」の2軒が苦戦しました。中途半端なメイド喫茶のごとくピンクの壁にシャンデリアという店舗で、まるで客の入店を拒んでいるかのごとく営業していたボヨヨンラーメンの不調はさておき、田代笑店の特製もり鴨は僕としては斬新で美味しいメニューだと思いましたが、結果的にお客さんはこの店をあまり選ぼうとはしませんでした。蕎麦とつけ麺の融合という斬新さや、つけ麺元祖山岸一雄さんの新たな創作メニューだというニュース性などがしっかりとアピールされていれば少しは違ったのでしょうが、最大の理由はこういう施設の中で普通の買い物客が一番目に選ぶメニューではなかったということに尽きると思います。やはり普通の人が最初に食べたいと思うのは味噌や豚骨でしょうし、斬新なつけ麺ではなく定番のつけ麺です。あの山岸さんが新たに手掛けた創作メニューを出す店よりも、東池袋大勝軒直系の味と謳って定番のつけ麺を出していた常勝軒の方が支持を集めたというのは非常に皮肉なことですが、ある意味こういう施設の傾向を如実に表しているとも言えます。

 そもそもラーメン劇場のような施設をSCなどに付随させる意味は、集客をより増やそうと考えるSCなどがラーメン施設に集まったお客さんをそのSCなどに流していこう、という思惑がありました。しかし、どこにもそこにもラーメン施設が存在し飽きられつつある現在、そんな施設に目新しさ、吸引力はありません。もう、一昔前のデパートの屋上のような、いわゆる「シャワー効果」的なモノをラーメン施設に期待するような時代ではないのです。実際問題、現状は本来客寄せパンダ的な存在のラーメン施設が、逆にSCに来ているお客さんをいかに取り込むかということに躍起です。あれだけ話題になり成功した施設の一つとも言えるららぽーとTOKYO-BAYの「東京パン屋ストリート」はその営業を今年1月に終えましたが、パン屋ストリートや船橋のラーメン横丁などの場合は、その施設がなくても母体となる駅やSCなどに元々集客力があったのです。

 ラーメン施設全体としての統一感、コンセプト、ミッション・ステートメントが明確でない施設は淘汰されていくのが現実です。だからこそ、ラーメン施設を経営される会社や出店するお店の方々にはぜひ頑張っていただいて、ラーメン施設を運営する意義やラーメン施設に出店する意義を今一度考えて欲しいと思うのです。

Rg_2■ラーメン:千葉ワンズモールラーメン劇場
千葉県千葉市稲毛区長沼町330-50ワンズモール2F
043-215-2220
11:00~22:00(21:30LO)
不定休(ワンズモールに準じる)

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