海浜幕張の一角に広がる住宅街「幕張ベイタウン」。千葉県内では新浦安と共に非常に人気の高い住宅街です。この街には1995年の街開きと同時に移り住み、今でも親が住んでいることもあって、非常に馴染みが深い街でもあります。当初はパティオスと呼ばれるマンション群6棟しかありませんでしたが、今ではタワーマンションなども建ち並び街の景色も随分と変わりました。それに伴い当初は少なかったお店なども徐々に増えてきています。
しかしながら飲食店のラインナップはというと、ベイタウンという街の規模の割には充実していないというのが率直な印象です。もちろんそんな中でもいくつかはお洒落でセンスのあるお店もあり、また隣接するホテル群に行けば一通りのしっかりした食事は食べられますので、いざという時にはまったく困ることはありません。ただ逆に普段使いで気軽にパッと入れる店となると、なかなか少ないのが現状でもあるかと思います。
そんな幕張ベイタウンに昨年夏にオープンした創作和食の店「ひきだし」は、気軽に美味しい料理が楽しめる、普段使いが出来そうなお店です。場所はベイタウンの中心部、最初に出来たパティオス6棟のうちの一つ「パティオス2番街」。お洒落な街並に合ったファサードが印象的です。店内は照明が明るく設定されており、白を基調にまとめられていて実に開放的で明るい印象です。オープンキッチンに面したカウンターは広々としていて、席間もかなり贅沢にゆったりと取られています。壁側がソファタイプの4卓あるテーブル席も座りやすそうです。スタイリッシュでクールな雰囲気でありながら、多くの日本酒や焼酎の瓶が並べられていたり、蔵元から貰った前掛けなどが飾られているので、クールさにどことなく温かみも併せ持った空間に仕上がっています。
週末の夜ということもありましたが、テーブルなどは予約でいっぱいで、飛び込みでなんとかカウンターに座ることが出来ました。週末などは予約をしておいた方が無難かも知れません。キッチンには3人いましたがうち1人はドリンカーでしょうか、シェフとその助手のような2人が処狭しと動き回っています。このシェフと思しき人の機敏な動きとスタッフへの的確な指示がお見事です。他にホールが3名ほどで回しており、ちょっとホールが手薄かなとも思いましたが、すべての客席がキッチンスタッフからも見渡せますし、これくらいのキャパシティには十分の配置ではないかと思います。ホールスタッフのテーブルウォッチとメニュー説明にやや難がありましたが、取り皿の交換などもマメに入りますし、全般的にはそれほどのストレスもなくサービス出来ていると思います。またこれはわざとなのでしょうが、店内に流れているBGMのヴォリュームが非常に小さく、その結果キッチンで揚げている油の音であったり調理の音、厨房での声かけなどがよく聞こえてきてライヴ感があります。
グランドメニュー自体はそれほど多くありません。煮物は牛筋の煮込みや角煮など2品ほど。焼物は豚カルビやエイヒレの炙りなど4品。揚物は天婦羅、唐揚げ、さつま揚げなど5品。他は炒め物などやおにぎりなどが並びます。基本的にこういうお店ではいくつもお皿を頼んで、シェアしながらだらだらと食べるのがお約束になっています。この日も都合7〜8皿頼みましたが、その中でもなかなか良かったのはお店もイチオシという「豚のトロトロ角煮」(650円)に「海老マヨちゃん(写真)」(650円)、それと「アボカドの香草パン粉焼き」(550円)などでしょうか。角煮は柔らかく煮込まれていて箸で持てないほど。海老マヨは中華というよりも和風よりの味付けがご飯に合います。香草の風味が立ちカリッとした食感のアボカドは自宅で再現してみたくなりました。どれもポーションが小さめで価格が安いので僕のような食べ方をする人間には実に都合がいいです。いわゆる前菜的なものから一品まで一通りがありますし、日替わりのいわゆる黒板メニューもありますので、過不足はないのですが、選ぶ楽しさを考えるとグランドメニューはもう少し数があってもいいかなとは思います。
しかしその日によって変わる日替わりの刺身や煮魚などの魚たちには、なかなかの品揃えを感じました。この日の刺身は「小名浜平目」(800円)「鹿児島カンパチ」(780円)「愛媛真鯛」(750円)など6種類、他には「下北半島赤めばる煮」(1,250円)「愛知めひかり一夜干し」(550円)などがありました。カンパチも真鯛も身がしっかりとしていて美味しかったです。またお酒は日本酒、焼酎をそれぞれ十種類以上揃えていて、日替わりのものもいくつか用意されているようです。この日は日本酒なら「天吹愛山(佐賀)」(1,000円)「三十六人衆(山形)」(900円)など、焼酎だと「喜(七七七)六(黒木本店)」(600円)「海(大海酒造)」(580円)などがありました。
いわゆる居酒屋的なダイニングバーのようなお店ですので、店に入るまでは正直料理のレベルはどんなものかと訝しく思っていましたがそれは杞憂に終わりました。この日は8皿程度しか食べていませんが、それらを食べた限りでは一皿一皿に対する作り手の意識の高さを感じます。食器の選び方も悪くないですし、500円だの600円などという低価格な料理にも関わらず、盛りつけがどのメニューも美しく、よく勉強しているなぁと思います。ランチも主婦層の間で好評とのことですがこの盛りつけで出しているのならばそれも頷けます。敢えて苦言を呈すれば出て来た水が不味かったことでしょうか。そこだけは少々残念ではありました。
しかし全般的にはこの価格帯でこの味と接客であれば、十分満足出来るお店でありました。そしてやはり前述しましたがシェフの動きが実に良く、そういうお店はまず外すことがないということを再確認しました。キッチンのみならずホールにも目がしっかりと行き届いていて、調理のスピードも実に早いです。これだけの席数があれば、やはりキッチンはドタバタするかと思うのですが、オーダー順にこだわらずに取りかかるオペレーションでオーダーミスや乱れもほとんどありませんでした。なによりもオーダーしたものがスッと出て来て、しかも熱々のものを提供してくれるのは飲食店として当然のこととは言え、こういうタイプのお店でそれがしっかり出来ているというのはなかなかないと思います。
■創作和食:日々飯菜ひきだし
千葉市美浜区打瀬2-3-103
043-211-5519
11:30~14:00(13:30LO),18:00~23:00(21:30LO)
水曜定休
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