西新井といえば、今年本厄の僕としてはやはり「関東厄除三大師」として名高い「西新井大師」であったり、門前に草団子や土産物店がひしめく狭い参道などがまず頭に浮かびます。やはり由緒正しきお寺さんの周りの雰囲気はいつ行っても変わる事がなく癒されます。あとは僕らの世代にはやはり「東京マリン」も忘れられません。2001年に惜しまれつつ30年の歴史に幕を閉じ、今は跡地はマンションとなり跡形もなく、同名のスイミングスクールが残るのみとなりました。
古くからのラーメン好きとしてはやはり西新井と言えば「らーめん涌井」でしょうか。創業して20年、恵比寿の「香月」出身でいわゆる背脂チャッチャ系ラーメンを出す名店ですが、よく千葉から車を走らせて夜の涌井へと足を運んだものでした。もう新しい店に移って十年くらいになるのでしょうか。また「西新井らーめん」も西新井のラーメンを語る上では欠かせないお店で、こちらは東武線の西新井駅ホーム上にある創業40年の老舗。聞けば日本初の「立ち食いラーメン店」なのだそうです。
そういう意味から西新井という町は、僕の中ではどことなくレトロ感漂うイメージの町であったのですが、数年前の日清紡工場跡地を軸に据えた駅前の複合都市再開発によって、大型ショッピングセンターが出来たりマンションなどが出来たりと、少しずつ町の姿が変わりつつあります。そんな新しい街並の一角に2006年オープンしたのがこちらの「中華そば椿」です。涌井や西新井らーめんのような一昔前のラーメン店ではなく、新しい街並に馴染んだお洒落な外観。開店早々話題になって一躍行列店の仲間入りをし、今では池袋や越谷に支店や系列店を構えるほどの人気振りです。
木の質感を活かした内装の店内にはストレートカウンターにテーブル席も用意されており、BGMにはRAPが流れています。ご主人は池袋の方にいらっしゃっているのでしょうか、若いスタッフ3人で厨房とホールを回していました。メニューは「中華そば」「つけめん」「油そば」で、いわゆる濃厚豚骨魚介系の今流行りのラーメンを提供しています。その意味でもお店の作り同様に新しい街に相応しい一杯と呼べるかも知れません。この時は行列は出来ていませんでしたが、平日の午後6時台前半でほぼ満席状態が続いていましたので、相変わらずの人気振りと言っていいでしょう。
こちらのお店では「つけめん」や「油そば」が人気で、特に「油そば」に至っては雑誌で多く取り上げられたり、通販で販売されていたりしますが、個人的にはやはり基本の「中華そば(写真)」(700円)をまずは食べていただきたいところです。濃厚な動物系スープのベースは豚骨で、そこに背脂や豚足、モミジなどの粘度が加えられているような印象です。そこに鰹節や鯖節といった魚節に昆布椎茸などの和出汁素材が加えられています。注文ごとに小鍋で温めていてスープに一体感を与えています。魚粉を活かした昨今流行の「どろざら豚骨魚粉系」と言えばそれまでですが、粘度はありながらも油分は低く抑えられているようで、食べていてしつこさがあまりありません。昨今の濃厚豚骨魚介系というカテゴリに入るとは思いますが、最近ありがちな魚粉だけをババッと入れたような味わい、口当たりではなく、しっかりと動物系スープと調和しているというか、丁寧な作りを感じます。
麺は前述した西新井らーめんの麺も手掛ける、地元西新井で60年にわたり麺を作り続けている老舗製麺所「双葉屋」の手によるつるっとした特注麺を使用しています。店内の張り紙にも雑誌の記事などにも「タピオカ入り」と謳われている麺ですが、製麺の過程において透明感を出したりモチモチ感を出すために小麦粉にタピオカ澱粉を加えることは、昔からあることで決して珍しいことではありません。僕自身もプロデュースしたお店の麺に何度もタピオカ澱粉を入れたことがありますし、冷凍や解凍を繰り返しても老化し辛い特性から、特に冷凍麺などでは必ずといっていい程使われている素材です。そういう意味では僕らのような業界の人間から見ればごくごく普通の素材なのですが、このようにお店で張り紙などに謳うとそれが麺のセールスポイントとなり、雑誌の取材をされる方やブロガーの方たちもその謳い文句をそのまま受けて「タピオカ入りの麺はモチモチした食感」などと記事にするので、またそれが伝わって店のウリになっていくのですね。その情報の伝播の過程は非常に面白く、また情報戦略的にもなかなか見逃せない事例であったりもします。
具は肉厚のチャーシューにメンマ、水菜、海苔、ネギといった過不足のない構成で、どれもそれなりの存在理由を持っています。角煮のような存在感あるチャーシューは、崩れるような柔らかさを持った食感です。かつてはアンデス高原豚を使用していたそうですが、スペイン産ソラ豚に変更したという張り紙がされていました。メンマは味付け自体は非常に控えめですが、スープ自体が濃厚なのでこのくらいの味付けが良いと思います。また一昔前は馬鹿の一つ覚えのように乗っていた水菜ですが、久々にこうやって食べてみると、生の食感が適度なアクセントになっていて意外と悪くありません。
比較的容易に作れるからなのか、流行を追っている店が多いからなのかは分かりませんが、昨今の新店などに目をやると、兎にも角にも濃厚豚骨魚介のお店がとても多いわけですが、だからこそここ数年は比較対象がしやすいというか、玉石混淆の中で美味しい店とそうでない店が分かりやすくなりました。正直なところ味の傾向としては豚骨魚介というのは飽きやすいラーメンのはずなのですが、中毒のようにリピート客を生む店と、やはり飽きられていく店がある。やはり店の姿勢は味に出る、と言いましょうか、明確なポリシーがあるわけではなく、安易に真似て始めたようなお店の場合は飽きられるのも早い。そういう意味ではこちらのお店は食べてお客さんが何度も足を運ぶのも納得、という味でありました。
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■ラーメン:中華そば椿
東京都足立区西新井栄町2-19-2
03-3889-0288
平日 11:00~15:00,17:00~22:00 ※スープ切れで終了
日曜 11:00~20:00 ※スープ切れで終了
水曜定休
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