浪花家総本店@麻布十番
今年は「鯛焼き」がこの世に生まれて百周年と言われています。発祥は一説には三重県津市の「日の出屋」(ちなみに今は「ビストロぴあっと」と屋号を変えて営業されています)とも言われますが、一応麻布十番にある老舗鯛焼き専門店「浪花家総本店」が鯛焼き店の最初とされており、その創業が百年前の1909年だからなのだそう。いずれにせよ、鯛焼きのガイドブックが登場したり、レンジで作るたい焼きメーカーもヒットしていたりと、今年は鯛焼きが静かなブームになっているのです。
鯛焼きには「天然物」と「養殖物」という2種類があります。1匹ずつが型になっているのが天然物で、5~6匹が一度に焼けるのが養殖物というわけです。もちろん職人の技術を要するのは天然物。一つ一つの焼け具合を見ながら焼くわけですから手間隙がかかるため、天然物の鯛焼きの数はずいぶんと減りました。本物の魚の世界も鯛焼きの世界も、天然物は稀少なのですね。
鯛焼きにも店それぞれの個性があり、味も異なりますので好みは分かれるかと思いますが、やはり長年愛されている老舗のたい焼きは必食の価値があります。中でも「浪花家総本店」と、人形町にある「柳屋」は双璧でしょう。これに四谷の「わかば」が加わると「東京鯛焼き御三家」とも呼ばれます。この三軒の中で僕が一番好きなのはやはり「浪花家総本店」。サトウハチロー氏や土井勝氏も愛したという鯛焼きはもちろん一匹焼きの天然物です。
鯛焼きなんてそうそう食べたくなるモノじゃないのですが、たまに食べたくなるといてもたっても居られなくなります。そうなるとそこらへんにある鯛焼きでは満足出来ない。だからと言って千葉からわざわざ麻布十番まで鯛焼きを買いに行くのはどうなの?と思いつつも、何かしら用事を作って結局は麻布十番まで行くのです。だって他の店のじゃダメなんだもの。
こちらはいつ行っても混んでいて、いつも職人さんが焼き続けています。ですから焼き置きなんてのはありません。一本一本の焼き型をくるりくるりと回す様が楽しくて、思わず見とれてしまいます。こちらでは待たなくても済むように電話で予約出来るのですが、どうもやはりこの店まで来て口頭で注文したくなる。あまり時間がかかるようなら「6時に取りにきます」と言い置き、近くの「豆源」を覗いたり「白水堂」でカステラ買ったり、ぶらり麻布十番を散歩します。お酒を飲まない僕にとっては、麻布十番は甘いものの町であったりもするのです。
そして6個入りや10個入りの鯛焼きを取りに戻り、そのついでにもう1個焼きたてをその場で注文して店の前でかぶりつきます。浪花家の鯛焼きは皮がカリッとしているので、比較的水分を多く含んでいる他の店のものと比べて、家に持ち帰ってもかなり美味しく食べられますが、やはりその場での焼きたてには敵いません。普通の鯛焼きよりも一回り小振りの鯛は、薄くてパリッとした皮の中に北海道産小豆を使った餡がぎっしり。しかし甘さはさほど強くなくすっと食べられます。素晴らしいのはその皮で、表は相当パリッとカリッとしているのに、中にしっとり柔らかい部分を残し餡と見事に一体化しているのです。これこそ職人の技なのです。
焼きたての鯛焼きが詰まった箱を車に乗せて走れば、車の中はほんわかした香りに包まれます。そして自宅の食卓で軽く焼き直してまた一匹。お茶も良いけど意外に珈琲も合うのです。
■和菓子:浪花家総本店
東京都港区麻布十番1-8-14
03-3583-4975
11:00〜19:00
火曜、第3水曜定休
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