う桶やう@祇園
夕日が落ちる黄昏時に祇園界隈を歩いていると、茶屋へ向かう舞妓さんや芸妓さんの姿とすれ違います。特に白川沿いや花見小路ですれ違うと、実に風情があっていいものです。特に幕末の志士たちも通ったという由緒正しきお茶屋さん「一力亭」のあたりから花見小路を建仁寺の方へ下って行く道は観光客も多く、舞妓さんが歩いていると写真におさめようとする光景が見られます。これもその背景となる町並みが実に京都らしいからでしょう。そんな舞妓さんが歩く昔ながらの町並みには数々の町家が立ち並びます。今では町家を使ったお店は和食だけではなく洋食やカフェなどもあり、さらには食器屋さんやブティックなどもあります。昔ながらの建物を気軽に楽しめるようになっているのですね。
ところで僕は根っからの鰻好きなのですが、実は京都には鰻の美味しいお店が数多くあり、鰻好きにはたまらない町でもあるのです。中でも僕が好きなお店をいくつか挙げると、きんし丼で知られる新京極の老舗「かねよ」に、祇園で百年近く続く老舗「ぎをん梅の井」、そして嵐山の名店「廣川」など挙げ出したらきりがありませんが、そんな中、京の古い町家を活かした風情のある鰻屋さんがあります。先ほどの花見小路を四条から下って一本西の裏筋は、町家を活かした料理店などが数多く集まっている筋なのですが、その筋の一角に知らないと素通りしてしまうくらいひっそりと佇む小さなお店、そこが「う桶やう」です。一番上の写真がその筋の写真なのですが、なかなか痺れる素敵な雰囲気でしょう。こちらのお店は何年か前に初めて知って足を運んで以来すっかり気に入ってしまい、もう何度となくお邪魔するお気に入りの鰻店の一つになりました。このお店は新京極、花遊小路にある江戸焼の老舗「江戸川」の支店で、本店の料理長でもある小磯さんは、僕の好きな南千住の「尾花」でも修業経験のあるベテラン。時々こちらのお店にも立たれています。
一間ほどの狭い間口の店に入るとすぐ左に調理場が見え、そこからは香ばしい鰻を焼く香りが溢れています。そして店の中にはいくつもの手桶が並べられています。細い階段を上に上がっていき風情のある二階で鰻を頂きます。ちなみに鰻は関東と関西で調理法などが違いますが 、ここの鰻は関東風、こちらで言うところの「江戸焼」です。 開きも関西のように腹開きではなく背開きですし、素焼き後の蒸しもしっかりとします。 こちらでは鰻の蒲焼、鰻重など数多くのメニューがありますが、もし複数名でこの店に来られるのであれば、ここはやはりこの店の名物でもある「う桶」を食べていただきたいところです。
この店名物の「う桶」とはその名の通り手桶にご飯と鰻が入ったもの。おそよ3人前の小から5人前の大までありますが、この日は2人で「う桶小(写真)」(7,870円)を堪能しました。良質のコシヒカリをタレでしっかりまぶしたご飯の上に、人数分の鰻の蒲焼きが敷き詰められたビジュアルは圧巻です。あまり上品な育ち方をしなかった僕としては、お腹いっぱい鰻を食べたいという下品な考えをいつも持っていますので、普段も鰻重は一番大きなものを頼みますし、中入があるなら間違いなくそれを選ぶわけですが、その想いをかなえてくれるのがこの「う桶」なのですね。もちろん一人でこれを食べるわけではありませんが、このビジュアルこそが求めていたビジュアルなわけです。そしてこれを杓文字で取り分けて皆でわいわい言いながら食べる楽しさがまたいいのです。ふっくらとした鰻は柔らかくそして香ばしく、タレは甘過ぎることもなければ辛過ぎることもなくいい塩梅で、ご飯にしっかりとまぶしてあるのでご飯だけ食べても美味しいです。
古き町家の雰囲気を味わいながら手桶に入った絶品の鰻を頬張る至福の一時。そしてお腹いっぱいになった帰り道、夜の花見小路をぶらり散歩するのもまたいいのです。こちらのお店はお昼も営業していますが、この雰囲気を味わうならやはり夜がお薦めです。ぜひ大切な人と足を運んでみてください。
■鰻:う桶やう
京都府京都市東山区祇園西花見小路四条下ル
075-551-9966
12:00~14:00(LO),17:00~21:00(LO20:30)
月曜定休
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